そもそも仕事がいちばんストレスがないんですよ ね。「ストレスだな」って思うことはやらなければ いい。あとは、仕事上のハードルはプロとして当 たり前のことという感覚がある。それは自分でコ ントロールできますから。 ─ シガーは息抜きになりますか? シガーは趣味として始めたのですが、実はちゃん と味わうためには、集中して吸わないといけなく て。何かやりながら吸っていると、ただ口元の寂 しさで、飲みながら吸っているタバコと同じよう な感じになり。煙を吸う量や、口に溜める時間とか、 ヨガの呼吸に近いくらい集中すると、旨さがわかっ てきます。 1 本吸うのに 1 時間以上もかかるのだから、他の ことをしたいと思い、本とか持っていくのですが、 読んだためしがない。葉巻を吸っている間は、本 当に 無 なんです。気づいたら1時間経っている、 そんな感じです。 ─ 集中するとずっと1つのことを続けられる方で すか? 飽き性なので、同じことを長くやらずに、パンパ ン切ります。ひとつの作業を詰め出したら、とこ とん詰められるとは思うのですが、長く時間を費 やすほど、大体クオリティが下がってくる。ここ とで 終了 と決めたら 終わり 。 撮れた と思っ たら 撮れた 。次にはひきずらないですね。 終わった仕事も見返すことはないですし、全く興 味がない。引越し準備の時、昔のアルバムを見だ したら 1 日が終わってしまったという話がよくあ りますが、僕には絶対にないです。昔のネガは速 攻捨てますし、データも破棄します。 ─ 長山さんにとって東京とはどのような場所ですか? 挑戦する場所ですね。東京にいると常に新しいことに挑戦しようとする意識が生まれます。僕の仕事、ファッション カメラマンは東京にしか存在できないですよね。 今、仕事ってどこでもできるっていうじゃないですか。カメラマンは無理ですね。体が現場に、被写体の側にないと いけないので。脳みその中だけでは仕事が完結できませんから。 ─ 東京で好きな場所、特等席は? 撮影現場でしょうか。様々な人たちが集まり、一つのアウトプットに向かう瞬間。自分の力を一番発揮できる場所で すし、存在意義を、自分が居る意味を感じる場所でもあります。自分にとっては、そこしか思いつかないですね。 他はみんなの東京というか、みんなで共有すべき場所。その大きい空間に点として自分が存在する、そんなイメージ ですね。 ─ スーツでお仕事をされることで知られています が、きっかけは? 「自分の持つものに、意志を持つ」という考えから で。最初はシャツをオーダーしたんですよ。その 時期に、たまたま自分のやりたい事を 100 個書き 出したら、その中の1つが「オーダースーツを作る」 でした。 ラルフローレンが好きだったんで、そこのオーダー サロンにいって、イギリスのクラシカルなスーツ ではなく、60 年代のアメリカ東海岸の広告マンの ようなイメージでオーダーして。店の人とスーツ を作っていく過程が楽しくなり、そこから始まり ました。 ─ご自身のスーツ、ファッションでこだわってい るポイントは? スーツを仕立てる人たちは立ち姿にベストの状態 を持ってくるんです。それだと、僕の場合は撮影 で使い、カメラを構えた姿勢になるので、腕や肩 のあたりが苦しいし、しゃがんだ時も腿の辺りが ピチピチでキツい。 そうならないように、撮影姿勢を基準に、仕上がっ た時にストレスが無いように採寸をして貰います。 立ち姿はむしろ緩くていい。自分の動き易さで、 全てを微調整していきます。正装ではなく、ユニ フォームに近い感覚でスーツを捉えています。 普段着は大体、エンジアド ガーメンツのミリタ リーパンツと、サンスペル、ジョンスメドレーと かの素材のいい無地のカットソーとか、ミニマム なものが多いですね。 ─ 今取り組んでいらっしゃる作品はありますか? 作品を撮りたいという気持ちは無くて、今興味が あるとすると、作品よりもその発表の仕方でしょ うか。例えば YouTube は、チャンネル登録者数 を増やす事が目的としたら、マスに向けてわかり やすい事をして、広く消費してもらわなくてはい けないですよね。それは、アーティストが、作品 の完成度を高めるということとは真逆の位置付け にあるというか。でも、実は果たして真逆なのだ ろうか、という気持ちもあり。 僕らの仕事なんて、意外に緩いんですよね。いく らでも時間はあって、打ち合わせ、撮影現場、レタッ チ、フィニッシュまで大した時間は使わずにでき る部分もある。人からは「大変ですね」って言わ れるのですが、そんなに大変ではなくて。最近、もっ と色々できるんじゃないかとか、そんな意識を持 たなくてはいけないのではと思っています。
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